遍歴の……



「読書感想文ってタイトルじゃ何だからって、これじゃ、ぱっと見訳分からないですね……」

へんれき【遍歴】
 ひろく諸国をめぐり歩くこと。「欧州各地を―する」
                  (『広辞苑』第四版より)



 趣味はと訊かれて答える読書。しかしその次必ず訊かれる、どのようなものを? という問いには言葉を詰まらせる丘崎。なぜなら何ジャンルが好きでよく読む、というものがないから。さらには名作や古典を読まないから。
 それで本当に本好きなのか? 自分でもそう思います……
 で、作ったのがこのページ。
 読んだ本のことを書くことで、自分の好きなものの傾向など知ることができればいいなと思って立ち上げました。いわば個人的な読書録です。独断と偏見に満ち満ちています。
 勿論ネタバレもあるよ!

 それでも構わないと仰る方はレッツスクロール。



上にあるほど新しくなっております。





第七回(2009/09/09)
『青銅の愛人』剛しいら もえぎ文庫
 これはいわゆるBLジャンルに入る作品です。
 人口過剰のため地球外に入植地を求めて旅立った人達が見つけたヘブンという星が舞台の話で、そこは二つの国があり、そのうち一国がコンピューターによって支配されていたが、どうにかこうにかして支配を取り戻した……というのは同文庫の『黒衣の公爵』、『紅の大王』、『白銀の麗人』シリーズでの話(『青銅の愛人』はシリーズの番外編とも言える位置にあります)で、『青銅の愛人』はその後日談になります。コンピューターの支配を止めるには、元々それを造ったプログラマーの生体認証が必要だったため、ヘブンの人達は地球から持ってきたプログラマーの精子を用いてクローンを作り出し、コンピューターの支配から脱するのですが、そのクローン……アーサーが本編の主人公となります。コンピューターの支配から解放された世界では、用済みとなったと感じたアーサーは、自らの存在を最大限に認めてくれる=愛してくれる者を必要とし、ロボット「アダム」を改造する……というのがおおまかなあらすじ。
 ロボットと人間の関係を主題にした話というと、第五回で紹介した『銀色の恋人』と共通するかと思います。人間が作ったロボットに対してどう思うか、どう扱うか。ある意味エイリアンを自ら作り出すというか、自分達とは別に、同じように接するべき存在ができた時どうするかを問うている二作品だと思います。被造物に対して、人間に対する愛情と同じような感情を持つのは許されるのか? も。
 そして、人間とロボット、とは別に『青銅の愛人』で提示されていると感じたのは、「人間はどうして生きていかなければならないか」です。といっても、一人がどう生きていくか? ではなく、人間という種がこの世に誕生し、繁栄することに対して疑問符を投げかける、ある意味タブーな提起です。作中では、人間は増えんと望み、支配の座から退けられたコンピューターのほうはアーサーによって人間という種を保存するために人口統制をしていたのではと語られます。どちらも一見正論に思えますが、果たしてそれだけでいいのか? 話の決着ではここで問題対象が種から一個人に代わって、それぞれの人間が幸せで生きていければいいや〜ラブラブハッピーエンディング、みたいな感じで終わってますが、この問いかけはちょっと凄いぞ、と、思いません……か? それともこの本読んでてこんなポイントに引っかかるのは私だけでしょうか? その確率は高い(汗)。
 ある意味人間だからこその疑問だと思うのですが。
 人類が増えて続けばこれ即ち至善か? というのが引っかかったかたはこちらも面白いかと……『タナトスの子供たち 過剰適応の生態学』 中島梓著、ちくま文庫。読みごたえあります。




第六回(2009/04/30)
『わたしにもできる探偵稼業』ジーン・リューリック ハヤカワ文庫
 昔、娘の友達だった女性と再会した家具修理人のキャットが、女優だったはずなのに変わり果てた姿で、しかも記憶喪失の彼女を保護するところから物語が始まります。出てくる人物が皆、物語世界の中で生きているという感じがよくする話です。書かれていないところでもしっかり生活しているんだろうなと想像できます。面倒見がよいというか姉御肌っぽいキャットをはじめ、魅力的な登場人物ばかりですが、私の気になる人物は、キャットが修理を請け負う骨董店のふたりです。シニカルで言葉はきついが、懐は広くて頼もしい、という感じの人物達です。骨董店にはもうひとり、仕事を教わっている青年がいるのですが、こちらはあまりに良いひと過ぎて、読んでいると和む(?)感じです。マスコットぽいというのではなく、心が優しくて一途そうなのが、見ていて力が抜けるようだというか……。
 ……別にとぼけキャラではないですよ?
 それから。これはアメリカを舞台にした話なのですが、車に乗って移動するシーンが多く、車社会って大変という印象を強く受けました。妙な点が心に残る私も私だ(汗)。運転できないとどこにも行けないぞ?




第五回(2008/11/13)
『銀色の恋人』タニス・リー ハヤカワ文庫
 SF。女の子と人間に模したロボットが恋する話。……と、成長の話。1987年に出たものの新装版なのですが、解説の小谷真理さんが、「途中で読み進めなくなる」というようなことを仰っていましたが、まさか自分も止まるとは。大体170ページの辺りで。一週間くらい放置して、でも最後が知りたいと再開し、その後は一気に最後まで読みました。選べない幸福は幸福なのかという話だと思いました。続篇があるそうなので、そちらも楽しみです。




第四回(2008/07/28)
『銀の犬』光原百合 ハルキ文庫
 ケルトな世界の話。声のない祓いの楽人(バルド)と相棒の少年が各地をめぐって思いを残して亡くなった者の魂を救う短編集。五篇の話が収録されていますが私のおすすめは第五話「三つの星」です。幼馴染みっていいな、と思える話です。



第三回(2008/05/16)
『レキオス』池上永一 文藝春秋
 これも読むのは二度目。旅に持っていったらカートの内側の金具と擦れたのか、表紙に穴があいてしまいました(泣)。星雲のすごくきれいな表紙なのに……。
 怪人っぽい男性が出てきて、沖縄で流された血をもとにして大いなる力を召喚しようとする話。一度目に読んだ時は夢中で気が付かなかったけど、この本、読むのに予備知識が沢山あるとものすごく楽しく読めるだろうなと感じました。物語はほとんど説明を抜きにして進んで、それがまた力強いのでぐいぐい引き込まれていくのですが、戦闘機の知識とか秘密結社とか魔術とかに詳しいともっと面白かっただろうなと思います。マニアックな楽しみが満載と言えます。
 あと、この物語の主人公って誰だろうとも思いました。デニスか、ヤマグチか、いや以外にキャラダイン中佐なのだろうか? 群像劇……?
 『レキオス』を語る時に外せないのが、サマンサ・オルレンショー博士を代表する魅力的なキャラクターです。サマンサは魅力的を通り越して何かすごいことになっていますが……もうトリックスターどころじゃないです、この人物。善も悪もなく、この人物の中だけで一つの世界が完結しているような異常な(注・褒め言葉です!)キャラクターです。サマンサに暗示でロボット化される前の広美とか、変な占い方だけど絶対当たるユタのオバァとか、幸福なラジニとか、一人だけでもう物語が一本できそうなのがぎゅっと詰まってます。濃いです。



第二回(2008/3/3)
『死の姉妹』タニス・リー、ラリイ・ニーヴンほか 扶桑社文庫
 どうもこんにちは。吸血鬼が三度の飯より大好きな丘崎です(のっけから何を)。今回は女性吸血鬼をテーマにしたアンソロジーです。吸血鬼って怪物界一エロいですよね!(そんな理由で好きなのか)
 前編を通して思ったのは、吸血鬼ってどうしても怖いとか、ひとに害をなす存在として描かれるんだなあということ。たまには怖がらせない、ひとに利益(?)のある存在としてでてこないだろうか? 言った手前考えてみると、……例えばガラスの小瓶みたいなのを背中にくっつけて、瓶の中の空気を吸い出すことによって人体の悪い血を出す、みたいな治療(エステか?)がありますよね? あれの代わりに吸血鬼に悪い血を吸ってもらって元気になったり。……悪い血なるものが美味しいかどうかは謎ですが。
 吸血鬼好きとしては、彼らと人間が仲良く共生していてほしいものです。(でもそれだと耽美な魔物という吸血鬼一番の見せ場がなくなるような気が……)。そんな訳でこのアンソロジーの中でのおすすめは「夜の仲間たち」デボラ・ウィーラーと、「犠牲者」クリスティン・キャスリン・ラッシュ、です。前者は日光が駄目な子供達を夜間学校に通わせられるようになった吸血鬼が、保護者達と関わらなければならないが……という話、後者は吸血鬼が自分達の存在を世間にカミングアウトし、マイノリティーとして偏見を持たれながら暮らしているという設定。後者は吸血鬼が被害者といういつもと反対の立場です。一読あれ。



第一回(2008/2/29)
『傭兵ピエール』佐藤賢一 集英社文庫 上下巻
 個人的に記念すべき第一回はこれ。実はこの本を読むのは二度目です。上下巻合わせて七百ページぐらいある長篇(汗)。一回読んで大まかな流れは掴んでいたので、わりとスムーズに読めました。雰囲気で分けると上巻はスリル溢れる戦争物、下巻は怒涛のロマンスですか。フランス百年戦争時代が舞台。アンジューの一角獣という傭兵隊を率いているピエールが主人公です。それにしても隊長、恰好いいなあ!(いきなりだな)人を生かして自分を殺す隊長は包容力で傭兵隊を率いていて、皆から父親のように慕われているのです(二十台半ばだけど)。ところがジャンヌ・ダルクに出会ったことにより傭兵隊(というか隊長)に微妙な変化が生まれます……。
 お気に入りの登場人物など並べてみたり。
 まずは隊長。二段になった鷲鼻が特徴のナイスガイ。戦争で若い傭兵達ばかり戦死したのは自分がジャンヌにばかり構っていたからだと判った時、ショックを受けます。それで結局ジャンヌより自分の子供のような傭兵達とともに戦場を去るのですが、この失恋シーンは出色だと思う。隊長、本当に自分を殺したな。
 傭兵隊の会計係、潔癖症のトマは冷静で合理主義的だけど、腑抜けた隊長のために一芝居打って、結果制裁に遭います。いくら立ち直ってほしくても、芝居がばれて殴られて、歯が折れてもいいとは……冷静に大胆な策をとるトマの名が文中に出てくると、おっと思って注目してしまう。脇役中では一番気になる人物です。
 美貌の冷血漢、隊の副長ジャンは隊長が貴族から傭兵に身をやつした時からの付き合いで、隊の中では頼れると共に水を差すような言動の異端児ですが、隊長を兄き呼ばわり(「兄貴」ではなく「兄き」なのがポイント)して慕っています。彼の活躍は下巻の最初、平和な村から隊長を遊びに連れ出そうとやってくるシーンと、やっぱり造反の場面でしょうか。可愛さ余って憎さ百倍というか、感情を素直に表すことにかけては隊随一でしょう。
 最後にヒロインのジャンヌ(ヒロインなのに最後なのか)、この人はラ・ピュセルとして戦陣にいた時よりも、下巻での言動の方が好きです。生まれた村での暮らしのことを語ったり、隊長から引き離される時のすごい情感溢れてそうな感じとか、神のお告げを聞いていた時よりずっと生きているという感じがしていいな。でも終始生真面目でこうるさいところもあるけれど。
 ……とまあ、こんな感じで語ってみたのですが……感想文ってこんなのでいいのかなあ? 一応あらすじのようなものも入れてみましたが、もっと読んだ方にしかさっぱり判らないような感じでもいいんですかね? ネタバレもどうなんだろう……(解決しないまま落ちる)。

 ※後になって、帯に宝塚宙組で公演と書いてあるのに気付きました。和央ようかさんが隊長らしいのですが、随分凛々しい美青年に……。この長編を、どうやって歌劇に編集したのだろう? 見たかったなあ。ヴィペットとカトリーヌがどんな風になっているのか気になる……。(2008/03/03)

inserted by FC2 system